ターナーアワード2025 受賞作品発表

ごあいさつ

1990年にスタートしたTURNER AWARDは、若い学生アーティストの第一歩を応援する公募展として、今回で36回目を迎えました。近年 デジタル技術の進展やAIの急速な普及により、 私たちを取り巻く創作環境や表現の在り方は大きな転換期を迎えています。デジタルが身近になる一方で、「思考し、手を動かし、表現すること」の意味が、 改めて問い直される時代でもあります。 そうした中で、「学生の、絵具を使った作品」に限定された本公募展に、前年度を上回る1,000点に迫るご応募をいただけたことは、 主催者として冥利に尽きる思いです。この場をお借りしまして、ご協力並びにご支援をいただきました皆さまに 厚く御礼申し上げます。

審査員は前回に引き続きO JUN氏(画家)、松井 えり菜氏(画家)の2名と今年度松本 セイジ氏(イラストレーター/アニメーター)を新たにお迎えし、若い学生たちの「描く」ことへの 熱い思いを受け止めていただきました。
審査の結果、若尾 武幸さん(愛知県立芸術大学)の「overrap」が大賞に選ばれました。54点の受賞作品は、東京、京都を巡回します。 多くの皆さまに会場にて今の作品を感じていただけますと幸いです。

2026年1月
ターナー色彩株式会社

審査員コメント

  • 撮影:木暮伸也

    O JUN(画家)
    今年の審査を終えて思うことをいくつか。最終審査まで残った作品はそれぞれ立ち止まらせ、魅入らせるものが多かった。また選外になった作品にも私個人きになるものがいくつもあった。高校生、専門学校生の応募は今年も多かったが、大学生の応募も今年は前年に比べて増えていたように思う。 皆個人が絵を描いてアワードに臨んでいるのはもちろんだが、専門学校、高校、大学とそれぞれ制作現場の諸事情や限定の様相が見えてくる。それは、テーマやモチーフ、画材、サイズなどに反映されている。よって自然と分布状況が見えてくる。大学生になるとさすがにそこは無くなり自分で絵を考え工夫し制作するようになってくる。 やはり絵くらいはそれぞれ勝手に描いてみたい。それができるようになるのがようやく大学生になってから…ということなのか。それでは美術がこの国の就学制度に則って描かせられているようなものではないのか。もしかしたら選外になった作品のなかにもそういう手前勝手な所業があったかもしれない。ともあれ受賞、入選おめでとうございます。
    大賞の「overrap」(overlapではないのか?もしくはOver Wrapとか…?)は、見た目ほどシンプルでも分かり易くもないと思った。画面の中でイメージが複数分割されていて塗り、筆触、彩度、それぞれに組成が異なるが、回転するヨーヨー、操作する手(腕)、の動態を描き分け接続している。背景の青は単純に見えるが、描かれている各イメージとその周縁と反応するように深度を変えている。「舞台」の造りが巧妙で練られている絵だと思った。
    画面上が絵具やそれ以外の材料でさまざまな方法でいろいろなことが描かれたり、表現されている状態状況を絵画と言うが、そのような「散乱」をどうまとめるか、あるいはまとめずに、衝突させたり隣り合わせたり重ねたり離してみたりその間に別なものを差し挟んだり、その境界を曖昧にしたりして何かのイメージや空間をつくる。今回のほとんどの作品もその方法に濃度深度の差はあれ、散乱状態であり絵の表面は描き手もろとも宙吊り状態なのだ。
    そのような一点「私の、アルバム。」はともすれば空中分解しそうな状況を本人の思い出の数々をもって必死に繋ぎ止めようとする気概と描きに打たれた。教室と窓外の二つの場所に横溢する時間と光。記憶の来迎図。
    他に「Wet Cement」、「信じてる」、「軽さの収集」、「朽ちてゆく記憶」、「漂流」、「共振」、「夕陽」、「3・2・1」、「偏屈」、「(モッツアレラ)2」、「GoodNight」、これらの作品にはそれぞれ魅せられた。
    最後に「楽園」。唯一の銅版画作品であるが居並ぶ色彩の群れの中でインクの黒と引き切る線の強さ、野蛮さが印象に残った。
  • 撮影:Ichiko Uemoto

    松井 えり菜(画家)
    昨年に引き続き審査に関わらせていただいたターナーアワード2025。今年度は昨年度に比べ大学生の参加が大幅に増え、全体のレベルが非常に高くなった印象を受けた。その一方で、中学生・高校生・専門学校生にとっては厳しい状況となったが、その中で受賞に至った作家は、自身の力量を十分に誇ってよいだろう。
    今回のアワードでは、愛知県立芸術大学・若尾武幸さん、群馬県立伊勢崎清明高校・落合優月さん、京都市立芸術大学・見島澪佳さんの作品のように、画面に配置するモチーフの“形”の面白さを追求した作品が多く見られた。
    大賞を受賞した若尾さんの作品は、シンプルな構成でありながら、 “ヨーヨーの動く軌跡”という事前情報がなくとも、独創的で魅力的な画面を打ち出していたためその完成度の高さにより審査員一同から高い評価を得た。一方、未来賞の見島さんの作品は、アクリル絵の具の描写の上にスワロフスキーやシールといった素材を貼り付け、きらびやかな画面を構成している。こうした素材を用いたコラージュ表現は、安易な印象に傾きがちだが、本作では要素が非常にバランスよく配置されており、 モチーフはひとつひとつ小ぶりでありながらも、それぞれが際立つ画面構成となっており審査員の注目を集めた。また、大阪府立港高等学校・窪田輝さんをはじめとした写実表現による油絵作品が多く見られた点も、今回のターナーアワード2025の特徴の一つである。 私が審査員賞に選出した武蔵野美術大学・中澤龍二さんの作品は、エキゾチックな絨毯の上に猫が座っているという、一見すると既視感のあるモチーフを扱いながらも巧みな画面構成により、その印象を超える表現として成立している。
    今回は福岡デザイン専門学校・播磨涼音さんをはじめ、丁寧な筆致で猫を描いた作品も多く見られたが、中澤さんの作品は、鑑賞者の視線の流れを丁寧に意識し、画面に安定した空間を生み出し他と一線を画す存在感を放っていた。直接的な描写に頼ることなく、構図と絵具の積み重ねによる質感表現を用い、(おそらく・・・)冷たい床とその上に敷かれた絨毯、そして猫の温かく柔らかな体との対比が、キャンバス上に静かな温度をもたらしていた。猫がそこに「いる」瞬間だけでなく、そこに「いた」時間、その先へと続く気配までも想起させる非常に力量のある作品であるように感じた。
  • 松本 セイジ(イラストレーター)
    今回、初めてTURNER AWARD の審査員をさせて頂きました。まず審査をさせて頂き感じたことは、学生達の作品のクオリティーの高さです。表現の幅も広く、技術力が高い。想像を超えた素晴らしい作品がたくさんあり、とてもワクワクさせて頂きました。審査させて頂いている私がすごく刺激を受け、勉強させてもらった気持ちになりました。 また、956件ものたくさんの応募があった事が、とても嬉しく思いました。なぜなら、私は過去に公募展の応募をきっかけに一歩踏み出す勇気を持て、人生が大きく前進した事が何度もあったからです。応募して嬉しかった事だけでなく悔しかった事もありますが、その結果も全て 自分の糧になっていると感じているので、今回の公募展が、学生の方々のこれからの人生をより楽しめるきっかけになる事を願いつつ審査をさせて頂きました。
    大賞に選ばれた若尾武幸さんの作品につきましては、パッとみた瞬間に作品から漂う雰囲気、美しく深みのある色に魅了されました。シンプルな構図でありながら、サイズも大きく大胆で迫力があり、どこか優 しさも感じられる素晴らしい作品だと感じました。モチーフや描き方も独創的で、「overrap」というタイトルからこの作品の意図や思いなど考える時間も楽しく、見れば見るほど気づきもあり、長い時間作品をを眺めていました。
    また、松本セイジ賞に冨田弦さんの「午前9時」を選ばせて頂きました。緑色とオレンジ色のバランスが絶妙で、草木に差し込む木漏れ日のような美しく繊細な表現に圧倒されました。キャンバスから飛び出てくるような広がりも感じられ、見ているだけでとても心地よく癒される気持ちになります。 私は自然が豊かな場所で暮らしているのですが、その自然の中で感じられるパワーと似たものを、この作品から感じました。この2点以外にも素敵な作品が多くあり審査することが難しかったですが、たくさんの作品に巡り合う事ができ、幸せでした。本当にありがとうございました。
  • 敬称略、順不同